シリーズ2 短編小説1-5
5話 パリでの新生活
あれほど無理だと思っていた、パリでのアパートが見つかった、と連絡があったのは、1か月くらいたってからのことだった。
もちろんそれまでも毎日電話攻めは、続いていたけれど、
かたくなに、アパートが見つからない限りは、もう戻らない、と言い張っていたから、
正直、アパートが見つかり契約をした、と聞いて驚いた。
そして、パリでの佳奈とフレデリックの新しい生活が始まった。
初めは、楽しかった。
でも、そのうちに、家にいることに飽きてきたので、仕事をしようと、色々面接に行った。
けれど、佳奈のフランス語力では、事務所なんかでは働けなかった。
そもそもパソコンのキーの配列が違う、ということすら気づいていなかった。
だから、パソコン入力テストをされた時、唖然としてしまった。
ようやく、日本のレストランが拾ってくれて、パリ6区にある和風レストランで働き始めた。
そこでは、日本人の人たちと話ができて、楽しかった。
みんな、似たような境遇だった。
しっかりと、主婦をやっているというより、何か生活が安定しないから、パートをしている、という感じ。
それに、家にいてもつまらないし、隣近所のフランス人とはなかなか友達になれない、と言っていた。
がらんとしていたアパートに、ホテルが不要になった机だの、ソファーだの、家具が増えて、見違えるようになった。
4つ星ホテルだから、不要になったものも良いもので、佳奈は嬉しくなった。
自分の勉強スペースも確保したりして、ある意味満足していた。
しかし、良いことばかりあるわけではない。
フランスは週35時間以上働いてはいけない、という妙な規則があって、
彼は2週続いて5日働いたかと思うと、その翌週には4日しか仕事に行かない。
行ったところで、前まで日課にしていた仕事帰りのポンデザールへは寄らなくなってしまい、まっすぐ6時には帰ってくるようになっていた。
彼が帰ってくると、早速お酒が始まるから、佳奈は正直、イヤだった。
相手をするのがだんだん苦痛になってきていた。
休日が特に辛かった。
日本ではレストランなんか日曜は稼ぎ時なのに、フランスでは休みだった。
彼は、一日中、朝からお酒を飲んでいた。
どこにも行かず、ただ飲んで、テレビを見たり、友達と電話で話したり。
だから、佳奈は、休みの日は、朝早起きして、そぉーと抜け出しパリの街を、
カメラをもってあちこち歩いた。たまには友達とお茶を飲んだり、
蚤の市に行ったり、図書館や公園で時間を潰した。
でも家に帰ると、彼はいつも怒っていた。
「なんで黙って出かけたの?」
彼は、何でも一緒にするのが好きだった。
出かけるにしても、家にいるにしても、いつもそばにいたがった。
でも出かけたところで、彼はウォッカ入りのコーラの大びんを持ち歩くわけだから、
早めに引き上げないとひどいことになる、と思って
一緒に出かけても、佳奈はいつも落ち着かなかった。
それでも、友達も増え、レストランでの仕事も順調になり、行動も自由になって
少しずつ世界が広がり始め、楽しくなってきた。
ところが、佳奈が楽しくなってくると、フレデリックがつまらなくなり、
お酒が少しずつ増えていくようだった。
そう思ったところで、彼とずっと一緒に
飲みたくもないお酒を飲んで時間を潰すことなんて、出来なかった。
佳奈は、段々、フレデリックのお酒が耐えられなくなってきた。
そして、思うことは、
「あれほどお酒を断つ、って約束していたのに、断つどころか、増えている。。。。」
佳奈は、自分の所為なんだろうか、とも考えたりした。
でもある日、本を読んで、今まで気づかなかった事実がみえてきた。